写真提供:(財)日本野鳥の会 

 ホウロクシギ Numenius madagascariensis は全長約53〜66 cm、体重558〜1,040 gの大型のシギです。長くて下方に湾曲した嘴を持ち、全世界に21,000羽いると推定されており、オーストラリアなどで越冬し、中国東北部やシベリア東部で繁殖します。生息環境である干潟などの減少にともなって個体数が減っており、日本版レッドデータブックでは絶滅危惧II類、BirdLife International版のレッドデータブックでは、要注意種(Near Threatened)に区分されています。
 そのような状況をふまえて、平成 7年 6月に開催された第 8回日豪渡り鳥等保護協定では、ホウロクシギの調査の必要性が協議されました。そしてその協議にもとづき、ホウロクシギおよび本種が生息する干潟を保全するための基礎資料を収集することを目的にホウロクシギの渡り経路の追跡を行うことになりました。

渡り経路の追跡方法
 ホウロクシギに送信機を装着し、人工衛星から追跡する、アルゴス・システムを用いて追跡しました。アルゴス・システムによる渡り経路の追跡は、鳥類の渡り経路や中継地を明らかにできるなど、保護を進めるために優れた点が多くあります。


写真提供:(財)日本野鳥の会 

渡り経路の調査
越冬地からの渡り経路の追跡
 1997年2月にはオーストラリア、ブリスベーン近くのモートン島で15羽、1998年1月にはモートン島で9羽、1999年1月にはブリスベーンで5羽、1999年2月にはメルボルンで8羽のホウロクシギに送信機を装着しました。
 その結果・・・・・

☆ホウロクシギは太平洋を一気に渡って、フィリピンや台湾、中国大陸まで移動することが分かりました。

☆ニューギニア島の東部などまで渡り、そこで渡りを中断してひきかえす個体もいました。

繁殖地からの渡り経路の追跡
 1998年5月にはアムール川中流域のヒンガンスキー自然公園で2羽に送信機を装着しました。また1999年5月にはヒンガンスキー自然公園で3羽、6月にはカムチャツカ南東部のエリゾボ近くの湿原で3羽に送信機を装着しました。

渡りの速度および飛行距離
 飛行中に複数回、測位することのできた例があり、それをもとにホウロクシギが渡る速度を見積もることができました。平均速度は57.6 ± 20.7 km/hでしたが、31.1 km/h から 92.9 km/hまで大きなばらつきがみられました。飛行時の風向が向い風か追い風かによって渡りの速度や必要とされるエネルギー量が大きく変化することが知られているので、このばらつきは、風向によるものである可能性があります。

渡り経路保全への提言
 ホウロクシギがオーストラリアからフィリピンや台湾に渡るあいだに、天候が急変し、渡りを行なうことが難しくなった場合には、台湾やフィリピンへの渡り経路上にあたるニューギニア島の東部の島々が重要な休息地になっている可能性が高いと考えられます。また、南下を追跡することのできた個体数は少なかったものの、繁殖地から南下してくる際にはこれらの地域が太平洋を横断してから最初の中継地になっており、南下の渡りの場合にも重要な地域と考えられます。
 太平洋を横断して最初の中継地は、5,000km以上も飛んだ後の中継地であり、さらに新たな中継地を探すのは困難と考えられるので、フィリピン、台湾、大東島、中国大陸本土の中継地の保全は、渡りを成功させるために特に重要と考えられます。
 このエリアより北の部分で重要と考えられるのは、北から白城、盤錦、南北朝鮮非武装地帯西海岸、塩城です。特に南北朝鮮非武装地帯と塩城は南下の際、太平洋を横断する前に長期間滞在し、渡りのための栄養分を貯える場所として特に重要な地域と考えられます。

渡りを途中で中止する行動の意義
 なぜ、渡りをしない個体や途中で渡るのを止める個体がいるのかは明かではありません。ホウロクシギのような大型のシギは一般に長命であると考えられています。短命な鳥では、大きなコストをともなっても繁殖に多くの力を投入することが適応的と考えられますが、長命な鳥では、渡りの途中で天候が変更してエネルギーを使いすぎてしまい、渡りを続けるコストが大きい場合には、渡りを止めてその年は繁殖できなくても自分の寿命を延ばすようにすることが進化的に有利と考えられます。したがって、ホウロクシギでは、渡りの前、あるいは最中に十分に食物をとることができなかった場合など、渡りをつづけることで死亡率が大きく上がってしまう可能性が高いときには、渡りを中止するのかもしれません。

生態調査
 1997年5月から6月にかけてヒンガンスキー自然保護区で行った調査によると、ホウロクシギは営巣環境として、ミズゴケと林などが組み合わさった湿地を選好しており、そのなかでも巣が水没しないように乾燥した草原のそれも高い場所を営巣場所としていると思われます。


写真提供:(財)日本野鳥の会 

平成11年度 環境庁委託調査 日豪ホウロクシギ共同調査報告書
(平成12年3月 財団法人 日本野鳥の会)より抜粋